
法話2010年3月 安洞院短信3月号掲載
かたみ
私の同級生でもあり世話人でもありました斎藤悦夫さんが突然の病に犯され昨年の暮れに急逝いたしました。彼は庭師の悦ちゃんとして多くの人に慕われ、また、永年にわたり安洞院の境内、墓地の管理に尽力されてきました。
余計なことは一言も言わず、家庭を守り 愚直なまでに仕事一筋、職人を束ねて、いつでも自分が先頭になり、庭師として活躍されてきた斎藤さんのご逝去は彼を知る多くの人たちに深い衝撃を与えました。
「なんであんなまじめな悦ちゃんが早く逝ってしまうんだべなあ。」
お葬式が終わり、夜が更けても、同級生たちはお寺から帰ろうとしませんでした。
斎藤さんは亡くなる前の年、「もちずり観音様の境内が、冬なんの花も無くて寂しいない。」と私に云って、知り合いから譲り受けてきた、たくさんの福寿草を資料館の前に植えてくれました。
大練(四十九日)忌が過ぎたある日の朝、いつもの通り、資料館の扉を開けた妻は彼の植えてくれた福寿草の花一輪を見つけます。花に近づいて、うっすらと積もった雪を取り除き、しみじみと眺めているうちに、一生懸命に福寿草を植えていた斎藤さんの姿がほうふつと目に浮かんで、妻は目頭が熱くなったといいます。
福寿草 一輪咲いて 大練忌
彼はまた私の求めに応じて、二百本を越えるもみじと桜を境内に植えてくれました。
桜は春に、そしてもみじは秋に私たちを楽しませてくれます。とりわけもみじは散り際わが美しいところから、人生の最後の姿と重ね合わせ、私もかくありたいという思いから、さまざまなもみじを植えていただきました。
もみじは寒中二月、十日間だけ眠ります。その間に剪定をします。
剪定をしないと葉が込みすぎて、樹勢が落ち、成長が止まってしまうからです。
「同じ枝なのに、残すのと、切るのとあるんだぞい。それを決めんのは庭師の目だげど、申し訳ないと思って切ってんだぞい。」庭師のやさしい心根が一服のさりげない言葉に感じられて、うれしくなりました。
残された枝たちは切り離された枝を想い続けて、真っ赤に紅葉するのでしょう。
ご冥福を祈り、彼の墓前に良寛の歌を捧げます。
かたみとて 何を遺さん 春は花 夏ほととぎす 秋のもみじ葉
庭師悦ちゃんの想いは数多くの樹々に宿り、四季を通して花となりもみじとなって私たちを迎えてくれることでしょう。
合掌
住 職
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安洞院短信2010年3月号(第62号)PDF
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