
法話2009年11月 安洞院短信11月号掲載
心を伝えて
庶民に慕われた僧・行基(ぎょうき)は東北にも足を運びさまざまな救済事業を施したと伝えられておりますが、師の特異性は単に布教に止まることなく、医療、建築、土木など広範囲にわたっているところです。
師はまた全国各地に自作の仏像を安置し、お堂を建立し、地域の信仰を深めていきます。文知摺観音にも師の御作による秘仏聖観世音菩薩が伝えられています。大きさは二寸二分(約6.6センチ)の一刀三礼仏。
一刀三礼という技法は、木像に一回ノミを入れるたびに製作中の木像に対して三度お拝
をするという方法で彫り上げていきます。仏像が完成するまで1000回ノミを入れれば、実
に3000回ものお拝を繰り返していきます。したがって大きな仏像はできません。浅草寺の観音様も同様一寸八分(約5.5センチ)で行基菩薩の御作と伝えられています。
仏教がわが国に渡来して間もなくの往時はお手本となる仏像の数はそれほど多くはなかったと思われます。そんな時代、仏師は経典を何度も何度も繰り返し読み続け、イメージを確実なものとし、その形を作り上げていきました。
時代により、地域により、また作者により同じ観音様のお顔が、時には厳しく、また優しい表情で彫り上げられてきた事実はそのことを如実に示しています。行基菩薩が辺境の地の平安を願い、今を去る千三百年前に安置された文知摺観音の秘仏聖観音様。一片の木を心を込めて彫り上げていったときその慈悲心は開眼と同時に永遠に仏像に宿ることになります。
西行法師、南北朝時代の北畠一門、芭蕉に子規など歴史上の人物や多くの人々により参拝されてきた文知摺観音様は幾多の試練や火災に遭遇しながらも守られ、観音堂も度々再建されて現在まで伝えられてきました。
今私たちが観音様の前にぬかずく時、堂内には慈悲に満ちた気が漂い、衆生済度を願った行基菩薩の思いと祈りが1300年の時を超えて、私たちに呼びかけてきます。
文知摺観音のご開帳は33年に一度奉修され、本来であれば7年後の平成28年に正当いたしますが、本年は特に観音堂が再建されて300年に当たりますところから、それを記念し特別に臨時のご開帳を奉修いたすことになりました。
あなたは秘仏の観音様とお会いして、どのような声をお聞きになるのでしょうか?
混乱と絶望の現世の中で、確かな自分を是非捜し求めてください。一人でも多くのお参
りを観音様がお待ちしております。
住 職
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安洞院短信2009年11月号(第58号)PDF
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